机相談

 

生まれてから55年間、
私はずっと埼玉県に住んでいる。

結婚後も実家から徒歩数分のところに住んでいるので、
子供たちも生まれてからずっと埼玉県民だ。

にもかかわらず、

双子の上の娘は、中3の夏が終わり、
そろそろ秋を迎えようとしていた頃、

神奈川県にある名前も知らない高校のHPを私に見せながら、

「この高校に行きたい。ここを受ける。」

と言ってきた。

「は?なんで、その高校を知ってるの?」

と聞いたら、

「自分でネットで探した。」

と言った。

そんな、バカな、と驚いたが、

時すでに遅し。

娘は一度言い出したらとにかくしつこい。

こちらが折れるまで粘りに粘る。

そして、親は折れた。

晴れて希望通り合格した双子の上の娘は、
都内にある夫の実家で義母にお世話になりながら、
神奈川県にある高校へ通った。

自分のことは自分で決める、
双子の娘たちには確かにそんな一面がある。

しかし、

その一方で、

なんだか、とにかく決められない優柔不断の一面もあり、
私は長い間その被害にあっている(-_-)

どこにあるスイッチなのか、
さっぱりわからないが、

そのスイッチが入ると、双子はやたらと相談魔になり、
特に上の娘はどうにも止まらない。

今、娘が顔をあわせるたびに私に相談してくるのは、

娘が一人暮らしをしている部屋の「机」のことだ。



机。

私はその机に心から関心がないし(涙)
本当にどうでもいいし(号泣)
何でもいい(大号泣)

机相談が始まってすでに3ヶ月以上は
経過していると思うが、

私は最初から、

「お母さんは今のままでもいいと思うし、
 もし、取り換えたければ、取り換えればいいと思うし、
 要するにどっちでもいい。」

以上

で一貫しているのだが、

そうは問屋がおろさない。

一昨日、実家に帰ってきた娘が、
帰りが遅くなった私を起きて待っていた。

う、嫌な予感(-_-;)

リビングのコタツでぐだーとしながら、
娘が「おかえり~」と言う。

私は着替えを済ませ、
コーヒーを入れて、
リビングに行き、

「何時頃帰ってきたの~?」

と娘に尋ねながらコタツへ入る。

娘は

「うーん、8時頃かな。」

と言う。

そして、

数分後、

「悩みがつきない。」

と言う。

「きたー!」

と思いながら、

私が、

「それは、もしかしたら、机のことですか?」

と言うと、

「え?なんでわかるの?」

と言う。

いやいやいやいやいやいやいやいや。

誰でもわかりますから。

娘は待ってましたとばかりにニコッと笑い、

「そうなの、そうなの。ねぇねぇ、これさぁ、
 どう思う?ちょっと見てよ。」

と言われて、

私は死んだ振りをした。

そんな私に慣れている娘は、

「ちょっと、これだけ、見てよぉ。おばさぁ~ん。」

とスマホの画面を見せてくる。

そもそも机に関心がない私は、
色々見せられても全部同じに見える。

「心の底からどれでもいいし、何でもいいと思う。」

と言うと、

「母親なのにひどい言い方するねぇ。」

と言う。

そして娘は、

「でもさぁ、ホントはこれがいいんだよねぇ。」

と言うので、

「じゃあ、それにしてくれ。それにしない理由はなんなの?」

と聞いたら、

「大きすぎて入らない。」

と言った。

「一生一人でやっててくれ。」

と思ったところで、

「いや違う。これは彼氏がいれば解決する問題だ!」

と思い直した。

延々と続く「机」の話を聞く役は、
母親ではなく、彼氏だ!

だから、

だから、

だから、

頼むからそういう人と早く巡り会ってくれ~。

今日も、きっと娘は、起きている。

机ぜめの刑が待っている。